確定診断までの経緯その⑯ S病院へ入院し生検(後編)
手術室の前のゾーンに、妻と娘が居ました。
僕が手術室へ移動する直前に病院へ来たらしく、こちらへ誘導されたのだそうです。
娘が、とても不安そうな顔をしています。
次の部屋までは家族も一緒で良いとの事で、自動扉の先へ進みます。
ここで執刀医の方とご対面。
上手く説明出来ないのですが、何だか頼もしい感じの女医さんです。
手術の内容を簡単に説明して頂き
「では、行きましょう」
と促されます。
妻が「よろしくお願いします」と頭を下げると、娘も大きな声で「よろしくお願いします!」と言いながら、深々と頭を下げます。
これには執刀医の先生も笑顔。
「はい、お任せ下さい!」
と、娘に向かって言って頂きました。
手術室に入ると、スタッフを紹介されます。
当たり前かも知れませんが、耳鼻咽喉科の担当医も手術室にスタンバイしていました。
ここで、執刀医と担当医の間で「どこを切るか」について、少し議論がありました。
執刀医としては「身体への負担と神経に対するリスクが最も低く、かつ病理検査に適した検体採取箇所」という観点から、ある箇所を主張。
これに対し、担当医は「病理検査に最も適した検体採取箇所」という観点で、別の箇所を主張します。
結局、執刀医が担当医を諭すような形で検体採取箇所が決まりました。
執刀医の方が明らかに上席と思われるので、当然の事なのですが、何と言うか、このやりとり一つを取っても、医療現場における指導者の苦労が垣間見え、なかなか興味深かったです。
手術台の上で横になると、色々と調整が入ります。
左手の痺れの事を伝えると、術中の姿勢に関しても工夫して頂き、僕としても「これなら大丈夫」というポジションを確保出来ました。
「では、局所麻酔をして行きますねー」
首に注射を打たれます。
少し時間を置き、麻酔の効きをチェックしてから、いよいよ切開です。
痛みは全くありません。
が、ここで一つ問題が。
どうやら、切っているのは担当医の方らしいのです。
僕が「執刀医」と書いた女医さんは、横で担当医の指導をしている様子。
一気に不安になります。
少しすると、電気メスなのかレーザーメスなのか超音波メスなのか分かりませんが「ジリジリ」という音と共に肉が焼ける匂いがします。
麻酔のおかげで痛くはないんですが、何とも嫌な気分。
その後は金属メスで手術が進んで行きます。
で、ですね・・・詳しくは書きませんが、手術の間、ずっと、上席の女医さんが担当医を指導する訳ですよ。
その「指導」のトーンは、徐々に「叱責」に近いレベルに。
「あのね」「だから」「何度も言うけど」等の言葉が増えて行きます。
そして、ある時、僕の左腕がビクビクと大きく痙攣。
「それ神経だから!しっかり見て!」
・・・・・いや、教育って大事ですよね。
分かります。
誰だって経験積まなきゃ、成長しません。
ただね、僕からすれば、本当に勘弁して欲しいです。
その後、何とか無事に手術は終了。
左腕の神経も、大事には至りませんでした。
それにしても、手術中、痛みを全く感じなかったのは驚きでした。
逆に言えば、麻酔薬って、どれだけ毒性が強いのかと。
手術室を出た後、ちょっとした手続きで待っている時
「耳鼻咽喉科の先生が全員見学に来てましたよ」
と、看護師さんに教えてもらいました。
これは滅多に無い事らしく、僕の症例が、それだけ珍しいという事なんでしょうか。
まぁ確かに、J病院では、そう言われましたが。
手術室の前のゾーンに、妻と娘が、まだ待っていてくれました。
傍に行くと、娘が無言で足元にしがみ付いて来ます。
ありがとう。
心配掛けて、ごめんね。
病室に戻り、抗生剤等の点滴を受けながら、少し眠ります。
18時頃、看護師さんに起こされ、夕食を食べたのですが、不思議な事に、何を食べたのか、全く覚えていません。
勿論、僕が毎日何を食べたのかを記憶している人間だという訳ではありません。
が、こういう印象的な日に、何を食べたのか、それがどんな味だったのかを忘れるというのは滅多に無い事です。
それだけ、入院とか手術に対するインパクトが大きかったという事なんでしょうか。
最終的に点滴が終了したのは23時頃。
結構かかるんですね。
点滴が終了して、少ししてから、病院を抜け出します。
病院の周りを散歩しながら、煙草に火を付けました。
頭がグラリとします。
煙草を吸って、こういう感覚になるのは、本当に久しぶりです。
何だか、学生の頃を思い出しました。