無知の知菴 〜悪性リンパ腫罹患者の日常〜

結節硬化型古典的ホジキンリンパ腫と診断され、経験した事、学んだ事、思う事。

車を運転するという事(東名高速道路の事故報道に改めて思う)

唐突ですが、以前の記事でも何度か触れている通り、僕は時々、サーキット走行を行なっています。

 

僕がサーキット走行を行なうようになったのは、趣味車を買った事がきっかけです。

趣味車のディーラーでは、サーキットでのトレーニングや走行会などを定期的に開催しており、そこで誘われて、サーキットを走行するようになりました。 

 

そのトレーニングに初めて参加する事になった時は、正直

「サーキットなんか走れるのかな?」

と、不安に思っていました。

 

が、その一方、僕は、ほぼ毎日、20年以上も運転をしていますし、これまで事故を起こした事もありませんので、心のどこかで「ま、きっと大丈夫でしょ」程度に軽く捉えていた事も事実です。

 

初めてサーキット走行を経験した際は、最悪でした。

 

僕が参加したトレーニングでは、参加者が運転技能レベルに応じて数組に分けられ、一組ずつ、現役のレーサーが先導して走行しながら指導を行ないます。

したがって、本来であれば、僕はビギナークラスに入れられる筈だったんですが、ちょっとした事情もあり、僕のようなズブの素人が、サーキット走行常連組の中に放り込まれてしまいました。

 

この常連組の人達はメチャクチャ速くて、先導するレーサーを後ろから突っつき回すほどの実力です。

走行前は「皆さんのペースを見ながら走りますんで、無理してスピードを出さないで下さいねー」とか言ってたレーサーが、抜かれまいとムキになり、 どんどんペースが上がって行きます。

 

その結果、僕はあっという間に、一人でコースに置き去りにされてしまいました。

 

初心者からすれば、サーキットなんて、どこをどう走れば良いのか皆目見当がつかず、僕は取り残されたコース上で物凄く不安になりました。

 

「そんな馬鹿な」と思われるかも知れませんが、これ、一度サーキットを走ってもらえれば分かると思います。

 

特に最初は、本当に、どこをどう走ったら良いのか全く分かりません。

 

普段、私達が走っている道路が、いかに走りやすく、安全に配慮して設計されているのかが分かります。


話を戻しますが、取り残された僕は「遅れちゃいけない」と、気ばかり焦ります。

ただ、どこをどう走れば良いのか分からないまま走る訳ですから、当然の事ながら、適切な運転操作を行なう事など出来ず、その結果、2度もコースアウトしてしまう事に。

 

この時のサーキットは富士スピードウェイだったんですが、ここはエスケープゾーンが広く、少々コースアウトするくらいでは壁にぶつかるような事はありません。

が、それでも非常に怖い思いをしました。

 

ちなみに、筑波サーキットなんかだと、エスケープゾーンが非常に狭い為、ちょっとしたミスで簡単に壁に激突してしまいます。

幸いにも、僕はまだ激突した事はありませんが、壁に激突する車を目の前で何度も見た事があります。

 

本当に恐ろしいですよ。


再度、話を戻しますが、この富士スピードウェイでの経験は、僕にとって本当にショックでした。

何しろ、20年も毎日車を運転していながら「運転という物が全く出来ていなかった」という事実に気付かされた訳です。

 

ハイテク制御の塊みたいな現代の車でも、サーキットのような環境だと、簡単に制御不能に陥らせる事が可能です。

逆に言えば、普段、車を運転していて、まず制御不能に陥る事が無いのは、公道での使用が想定された車の高度な制御技術と、非常に良く考えられた道路設計のおかげです。

 

決して、ドライバーの運転技術が高い訳ではありません。

 

そして、私を含め、未熟な運転技術しか持たず、場合によっては、自分の事を「運転が上手い」などと勘違いしている人間が、歩行者や対向車がいる街中で、2トン近い凶器を毎日振り回しているという事実。

 

つまり、ドライバーは、いつ人を殺してもおかしくないという事です。

 

それらの事実を痛感した時、車なんかすぐに叩き売って、運転そのものをやめてしまおうかなとまで思いましたが、それでは結局、何の解決にもなりません。

自分なりに考えた結果、まずはドライビングレッスン等に通い、運転を一からやり直す事にしました。

 

運転技術や運転理論に関する書籍等も読み漁りましたし、サーキット走行も何回か行ないました。

勉強をして行くと、一般道で法廷速度以内でも練習出来る事が沢山ある事も分かりましたので、それも毎日実践しました(それらは今でも実践しています)。

 

そして、数ヶ月後、再び富士スピードウェイでのトレーニングに参加。

まだ不安はありましたが、とにかく、きちんと車を制御する事を心掛けて走ります。

 

すると、まぁ多少は練習の甲斐もあったのでしょうか、それなりに余裕を持って走る事が出来ました。

コースアウトする事も無く、車列に遅れるような事もありませんでした。

 

尚、このトレーニングは国内A級ライセンスの認定試験も兼ねているのですが、そちらも無事に頂く事が出来ました。

ただ、正直、ライセンスの取得自体はどうでも良く、とにかく、この経験を通じて嬉しかったのは、あんなに怖かった運転を「楽しい」と思えるようになった事です。

 

それと同時に、車を運転するという事の意味や責任を、より一層、痛感するようにもなりました。

これまでも、頭では理解していたつもりだったんですが、しっかりと自分の身に沁み渡らせる事が出来たと思います。

 

実は、ここからが本題です。

 

先日、やり切れないニュースを目にしました。

今年の6月に発生した、東名高速道路で夫婦が亡くなった事故の経緯について、数日前から色々と報道されています。


このブログで、その事故について詳細に解説する気はありません。

個別の事故内容について、意見を述べるつもりもありません。

ただ、常々思っている事があります。

 

それは、車の運転免許を交付(及び更新)する条件は、もっと厳しくした方が良いんじゃないか?という事です。

 

今回の記事に書いたサーキットでのトレーニングは一例に過ぎませんが、運転免許の交付や更新をする際には、こういった講習を義務付けてはどうでしょうか。

 

国内A級ライセンスの取得は、実は割と簡単で、はっきり言えば、誰でも取れます。 

ですから、実際にライセンスを取得する事自体は、あまり重要ではありません。

ただ、その取得過程で経験する事は、今回の記事で述べたように、車の運転に対する意識を確実に変えると思います。

 

これが、非常に重要な事です。

 

事故の性格上、仕方の無い事なのかも知れませんが、東名高速道路の事故に関しては、容疑者を非難したり、被害者に同情する観点からの報道がほとんどのようです。

そして、僕が非常に残念に思うのは、こういう事故を「どうすれば防げるのか」という提言が、ほぼ見られない事です。

 

この事故は、容疑者が車を運転する事の危険性と責任を正しく認識してさえいれば、決して起こらなかった筈です。

 

まず、煽り行為や急ブレーキ、進路妨害等の危険な運転もしなかったでしょうし、高速道路上で車を停止させる事など、絶対に有り得ません。

そもそも、トラブルの発端となったとされる、パーキングエリア上の危険な場所に車を停車させる事すら無かった筈なんです。

 

運転技術や運転適性、また容疑者の素行等の話ではなく、ただ運転に対する認識が正しければ良かっただけの話です。

この容疑者に限らず、危険な運転をしているドライバーはそこら中にいますし、そういう連中は、実際に事故を起こしています。

 

つまり、現行のプログラムでは、運転に対する正しい認識をドライバーに与えられていないのです。

 

先に述べた通り、国内A級ライセンスの取得講習自体は、ただの一例でしかありませんし、それがベストな方策だと言うつもりもありません。

ただ、この講習プログラムは既に存在する訳ですから、簡単に流用する事が可能で、すぐに実施出来る対策だと思います。

 

不可抗力で命を落とす事は、残念ながら、あるでしょう。

でも、この東名高速道路の事故は、意識一つで防げた筈なんです。

 

こんな事で人が命を落とすなど、あってはならないと思います。